DISC
New Release
影の無いヒト
2009.06.17 /commmons
¥2,940(tax in)/ RZCM-46217
購入はこちら
M01. コトバを連呼するとどうなる
M02. 影の無いヒト
M03. Stew
M04. くるみ合わせのメロディ
M05. Sabadiilla
M06. ウーハンの女
M07. 家へ帰りたい
M08. Jump!
M09. 影の無いヒト〜Lehera_tronics MIX〜
M10. 12節〜24...22...46 Remix〜 Remixed by Talvin Singh
M11. カクニンの唄


Guest Musician : 坂本龍一、宮藤官九郎、太田莉菜、キセル、Talvin Singh…and
more
あなたと同じくらい狂っています 泣いています
ASA-CHANG&巡礼が10年かけて辿りついた、音楽の向こう側。

ASA-CHANG&巡礼…構想5年。制作4年。…遂に、アルバム完成。


ASA-CHANG&巡礼

『影の無いヒト』

 
ASA-CHANG&巡礼の新作『影の無いヒト』は、
痛くて、苦しくて、悲しくて、そして狂おしいまでに美しいアルバムだ。
言葉とリズム、ライムとフロウ、サウンドとアレンジが絡み合い、産み落とされた、およそ彼らにしか見えない、作れない世界である。
聴く者に、正対することを求める音楽なのだ。とりわけタイトル曲「影の無いヒト」の不吉なる波動には胸騒ぎさえ覚える。 

 
「日本の現代文学史上“最恐”とうたわれる作品を読んでたんですけど、暗くて、苦しくて、つらくて平静では読めない。でも素晴らしく大好きな小説なんです。暗くてねじ曲がっているけど、でも美しい。最近の面白い小説も映画も、みんなそういう方向に行ってるのに、なぜ音楽だけが、軽く"みんな頑張ろうよ"とか言っていられるのか。こんな時代なのに、無責任すぎると思うんですよね。社会とか周りの状況がどんどん変わっているのに、音楽、とりわけポップ・ミュージックだけが、ある種浮ついたような、嘘の…ウワズミの様な表現になっている気がする。聞き流せるからポップ・ミュージックなのかもしれないけど、聞き流せないものもあっていいと…」 

 とめどない社会と経済の収縮。不安と恐怖は募り、エントロピーは増大し、出口なしの閉塞状況の中で、ASA-CHANGは叫んでいる。泣いている。七転八倒、行きつ戻りつ、苦吟呻吟しながら書き上げたという9分間。こういう表現にならざるをえなかった、こういう音を、言葉を選ばざるをえなかったギリギリの切実さが、胸を衝く。 

 
「ギリギリのところに、美しさを感じるんです。臨界点を超えたところにポーンと野ッ原があって、とてつもなく美しくて涙がコボれちゃった…みたいな。<振りきった美しさ>。そういう情景が目の前にある様な音楽がいいんです。言葉は音楽の大事なピースの一個なんですけど、とことん突き詰めて、それ以外にない、というところまで追求して、音のヒトツのつもりで使っていた言葉に"心臓ができてくる"というか"血が流れてくる"というか、そういう瞬間が…言葉が光り出してくるんですよ。ああこれはヤバイヤバイ、これは(何かを)超えてるんじゃないか、突き抜けちゃったんじゃないか、という瞬間があったんです。過去にはない手応えだった」 

 
「影の無いヒト」のようなシリアスでヘヴィな曲と、「ウーハンの女」「家へ帰りたい」といったゆるいユーモアを感じさせる曲が違和感なく同居する。それはアルバム構成上のバランスということ以上に、そこに人生の真実があると考えたからだ。
絶望の裏には光があり、笑顔の影に冷たいシニシズムが宿る。
「男と女、希望と現実、ウソとホント、好きとキライ、始めとオワリ、死ぬも生きるも、出会いも別れも、良いも悪いも」、すべてここにあり、喜怒哀楽さまざまな表情が切なく明滅している。その光景から目を、耳を離せない。 

 
今作を創るにあたって、ASA-CHANGは、かっての名曲「花」を超えたいと願ったという。いつまでたってもつきまとう「花」のイメージを少なからず負担に感じることも一度や二度ではなかったようだ。決定的な名曲を持つことはアーティストの願いだが、反面プレッシャーであり苦しみでもある。 

 
面白い話がある。「花」がヒットしていたころ、レコード店の試聴機で「花」を試聴した人の反応が極端に二分された。ある女性はヘッドホンを叩きつけるように試聴を中止し、ある男性はその場にうずくまったまま泣いていたという。こんな極端な反応を引き出す、美しくも危険な、このうえなく蠱惑的な音楽。 

 
「自分ではそんなつもりはなかったんですけどね。そんな、とことんまで人をやり込めたり追い込んだりするような、そんなところまで(人の心を)ワシ掴みにしたくないと思った。だから<花>以降はなるべく裾野を広げるように、ポップなアプローチで、ずっとやってきたんだけど、もういいんです(笑)。もう我慢の限界がきて、決壊しちゃった。<花>以降、巡礼の音楽はまっとうなポップ・ミュージックのつもりでやってきたんだけど、もういいかと(笑)」 

 
だが、毒にも薬にもならない曖昧な反応しか生まない人畜無害な人生応援歌が横行しているからこそ、『影の無いヒト』には価値があり、ASA-CHANG&巡礼の音楽がなおいっそう劇的に、美しく響くのではないか。 

 
「セールスですか? そりゃ欲しいけど……簡単には言えないよねぇ。人の心を揺さぶればいいとか、そんなきれい事じゃ収まらない音楽だとも思うし……問題起こしてもいいです(笑)」 

 これはいま、このときにこそ聴かれなければならない音楽だ。
もうわれわれはASA-CHANG&巡礼から、『影の無いヒト』から、逃れられない。そんな予感がする。


2009年3月30日 小野島 大
Page top
NEWS TOPICS VOICE PROFILE DISC GOODS BBS ENGLISH Mail to